『異世界失格』(原作野田宏、作画若松卓宏)

異世界失格』(原作 野田宏、作画 若松卓宏)を読んだ。太宰治が主人公の異世界転生物である。読みながら、太宰治もここまで来たか、彼ほどよく目にする文豪もいないなと思った。

 

漫画では『文豪ストレイドッグス』(朝霧カフカ春河35)、『文豪失格』(千船翔子)、『文豪の食彩』(壬生篤、本庄敬)などに登場、『月に吠えらんねえ』(清家雪子)でも名前だけ登場していた。作品をモチーフにしたものを含めれば、『人間失格』(伊藤潤二)、『人間失格』(古屋兎丸)、『グッド・バイ』(羽生生純)などがある。

 

他にブラウザゲーム「文豪とアルケミスト」にキャラクターとして登場、、映画では「人間失格 太宰治と3人の女たち」、「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」など枚挙にいとまがない。三鷹には太宰治の作品名を冠した古本カフェ「フォスフォレッセンス」があるほどだ。

 

小説では『転生!太宰治  転生して、すみません』(佐藤友哉)もある。偶然にも、こちらの作品も太宰治転生ものだ。内容は異世界でなく、現代の日本に転生したら…というものだが、太宰の一人称、それもあの独特な文体を彷彿させるもので書かれており、おもしろい。芥川賞に対する執着がクローズアップされている。

 

太宰といえば、酒、芥川賞、女性、心中、がキャラクターとして重要なようだ。

 

特にこの心中、という要素が転生ものと相性が良いらしい。

 

マイナス思考ですく死にたがる…という一つの太宰キャラクター像は、彼の作品から生まれたのが主だと思うが、(実際の太宰は明るく話し上手だったという)一番のイメージ源となっているのは、『人間失格』だろう。

 

タイトルのストレートさも相まって、先にあげた漫画のタイトルや舞台(「人間合格」井上ひさし)でも、使われることが多い。また2007年に集英社から刊行された、小畑健による表紙絵の文庫本は、今では漫画やあらゆる媒体に登場するようになった、文豪のキャラクター化の先駆けかもしれない。

 

そんな現代でも若者に愛されている文豪、太宰治。キャラクターとしては飄々としているが、実はデキル、やる時はやる奴、みたいなものが多い。

 

私は今でもこういったキャラクターは大好きだが、人によっては急に邪眼が開きそうになったり、実家に残してきたノートが気になってしょうがなくなる人もいるだろう。

 

要は、実在した人物のくせにキャラクター性、スター性が強すぎるのだ。

 

これで本人の写真が幸楽の店主寄りだったらまだ愛嬌があるが、シュッとしたイケメンである。

しかも残っている代表的な写真も、バーのカウンターにいるもの、と決まり過ぎている。

そこに、あ、決まり過ぎた、といわんばかりに、そこにお茶目なエピソードものせてくる。

 そして現代ではこの愛されぶりである。

 

これでは川端康成でなくても、イラっとするかもしれない。

 

異世界失格』の話から大分それてしまったが、こちらに登場する太宰も、シュッとしたイケメン、死にたがり、女たらし、消極的、そしてやる時はやる奴である。フリスクのように睡眠薬をのんでおり、湯豆腐が好き、など小ネタも挟まれている。

 

読みながら、クーデレ系、ツンデレ系、俺様系、王子様系、などと同じように、いつか太宰治系、という言葉も使われるようになるのでは、と思った。

 

太宰治の人気ぶりがよくわかる漫画である。

 

文豪のキャラクター化について諸々書いてしまったが、私もいつか永井荷風の「狐」が彩景でりこ先生作画でコミカライズされないかと妄想するくらい、欲望にまみれている。人間、読書している人間はまじめに見えてしまうものだが、内実は必ずしもそうではない良い例である。

ともかく、読書は楽しい。