『少女マンガのブサイク女子考』(トミヤマユキコ)

買ったものの読まない本はある。『少女マンガのブサイク女子考』(トミヤマユキコ)もその一冊だった。読まねばという思いと、タイトルのごつさ、そして表紙のファンシーさが混じりあい、机の上で積まれたままだった。

なぜ買ったのかと言われれば、気になったからとしか答えようがないし、なぜ師走に読み始めたのか、と言われれば、年の瀬&新年の支度からの逃避行としか言いようがない。

 

タイトルが『少女マンガのブサイク女子考』である。

「ブサイク」である。容赦がない。[i]

 

この4字は、「ブス」より、もう一段ランクが高い感じがする。

「ブス」がHBだとすれば、「ブサイク」は4Bくらいはありそうだ。

動揺のあまりよくわからない例えをしてしまったが、とにかく強いパワーを感じさせる4字、それが「ブサイク」だと思う。

 

少し前にその名前をもじった男性アイドルグループが流行ったが、彼らは到底その4字とは程遠い世界の住人であり、日本人の謙虚さを改めて感じさせられたものだ。

 

アイドルとブサイクは、現状強く結びつかない、というのは、現状においては(その良し悪しを別として)割に同意を得られる認識だと思う。それと同じように、「少女マンガ」と「ブサイク」も、すぐには繋がらない人が多いのではないのだろうか。 

あるいは、食べ合わせの悪さを想像し、3秒先に想像できる地獄に呼吸が止まる人も多いかもしれない。私もどちらかといえばそのタイプであり、「ルッキズ…ム」と呟いたまま年越しそばをのどにつまらせるかと思ったが、いかんせん、読み終えたあと、ますます少女マンガを読みたくなってしまうので困る。

 

これは、前書きにもあるとおり、「美醜の問題が少女マンガ家たちにとって取り組み甲斐のある題材」であることの裏返しだし、その中で「美人は得でブサイクは損、みたいな単純な二項対立を乗り越えていくような作品」が生まれ続けていることも、読んでいくなかでわかっていく。

 

言うまでもなく、この美醜の問題はヒロインの恋に起因するものが多いのだが、「恋をしたから綺麗になったよ!」で済む話は百億年前に終わっており、現代の少女マンガでは、「落ち込んでいるヒマはねえとばかりに、研鑽を積みまくって」(「『俺物語!!』の猛男が女だったらどんな感じ? 『終電車』」)「あたしの人生の主役はあたしだ!!」と叫び、最終的には「まずは自分が自分の気持ちを受け入れてあげなくちゃ。」というところに落ち着いていく。ヒロインは、恋をするものの、憧れの彼に近づくために、自分を認めるところから始めようとする。読みながら、こうした作品を学生時代にもっと読みたかった…!と膝を打った。

 

自分を認める、というのは本書においても重要なテーマの一つのように思う。

 

「「醜さ」の」の呪いが解けたあとに残るもの 『半神』『イグアナの娘』」では、母親による言葉の虐待で、「自分は醜いイグアナで、「妹」マミはかわいい女の子。」と信じ込んだまま大人になる主人公を描く、『イグアナの娘』(萩尾望都)が取り上げられている。「家庭という狭い世界で自分を客観視する術を持たなかった」主人公は、イグアナとして生き続ける。彼女の本当の姿が、他人にどう映るかはわからない。物語のおしまいにタイトルの「娘」という意味が、きちんと回収されたとき、「ルッキズム」と「自己認識」について考えざるを得ない。

 

イグアナの娘』は、本当に彼女自身が「母親」の言うような外見なのかは、はっきりとはわからない。「自身が醜い」という母親にかけられた呪いが、彼女自身を形成しているからである。こうした、ルッキズムに付随する呪いも、『宇宙を駆けるよだか』(川端志季)、『王子様はマリッジブルー』(わたなべ志穂)をとおして論じられている。

 

「ブサイク」を取り上げていることで、「ブサイク」をめぐる認識について言及されており、「わざとブサイク」になることで、恋の舞台から退場し、男女間のめんどくさいことから逃れられる、そんな「ブサイク的なふるまいで身を守る」ことについても、「非常にやりきれない話」としながら、事例として取り上げられている。(なお、紹介されている少女マンガのなかで、やりきれない作品は断トツで『エリノア』である。地獄を煮詰めたらおそらくあんな感じになる。)

読みながら、少女マンガの多様さに改めて気づかされた年末だった。

 

 

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[i]念のため補足すると、「ブサイク」という言葉自体に対して、「他人に向かって言うことはあってはならないし、自称する自由はあると思うものの、その機会がなければないに越したことはないと思う。」と前書きに書かれている。フィクションの中で描かれる「ブサイク」をとらえ、ルッキズムや自己認識の問題を考えるうえでこの言葉が用いられている。