『わたしたちは無痛恋愛がしたい 〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』(瀧波ゆかり)

「ここ10年の最大の成果は」「私が言葉を手に入れたことです」

(『わたしたちは無痛恋愛がしたい 〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』第11話より)

 

星置みなみ、23才、東京の会社員。パッとしない仕事とパッとしない恋愛(夜だけ現れる男、恵比寿千歳と関係を持っており、みなみ自身もそうした日々を「普通にしんどい」と言っている)に追われる生活を送っている。時折友人の栗山由仁と飲みながら、互いの近況を報告していく会話劇のような場面と、みなみの鍵垢から引かれるモノローグが交錯しながら話が進んでいく。

 

 人数合わせで呼ばれた飲み会のつまらなさ、男性からの悪意のない圧力への不満、日々直面するやるせなさをみなみは鍵垢(フォロワーしか見られないアカウント、みなみの場合は限られた4人のフォロワーのみに向けて発信される)でツイートする。「思ったことは吐き出したいけど、知らん人にジャッジされたくないから」みなみは自身の気持ちをそこに書く。

 由仁は数少ないフォロワーの一人で、「みなみの文章が好き」、もっと広く発信すれば良いのに、とみなみに言ったこともある。実際、10年後にはみなみは文筆業で食べていけるようになっており、半ば予言のようなこのセリフから由仁がよくみなみを観察している、見守っていることがわかる。(こうした細やかさが仇になり、後に由仁はみなみとの友人関係に疲れる)

 

みなみ、由仁、そして元ジュニアアイドルで婚マスのうずらちゃん(2人の友人でインフルエンサー)。20代の3人を中心に話は進み、第10話からは3人の10年後が描かれる。冒頭に引用させていただいた作中の言葉のとおり、10年後のみなみは

「ささいな違和感やモヤモヤを  解きほぐして言語化していくことで

私は少しずつ「それってどうなの?」と言える私になったのだ」(第11話より)となった。

 

 ここで対象的なのが、「キラキラ人生担当」(第10話より)のうずらちゃんだ。

 タワマン、インフルエンサー、青年実業家と結婚、と「キラキラ」な結婚生活を送るうずらちゃんだったが、彼女もまた、第15話(「私の怒りをジャッジするな」)にて「吐き出し用の鍵アカ」を持っていることが判明する。

 終始育児と鍵アカのつぶやきが交互に入交りながら進むこの話では、うずらの本心は「鍵アカ」だけに吐き出される。ワンオペ家事育児に疲れ果てたうずらにとって鍵アカは本心をぶちまけられる場所なのだ。吐き出されたうずらの怒りは誰にも見られない場所で埋もれていく。

 最新話ではうずらの夫サイドがフォーカスされており、これもまたおもしろい。うずらの夫清隆のモノローグ「別に知りたくないんだよ いちいちそんなこと……」(第18話「男の度量」)にすべてが凝縮されている。タイトルから、恋愛色が強いのかと思えば以外にもそうじゃない。結婚、恋愛、仕事、ふとした生活の中で直面する痛みに向き合いながら、懸命に生きていく女の子たちの話である。(もうみなみ、由仁、うずらうずらの子の4人で暮らしたら幸せになるのでは……と思わなくもないくらい、10年後のみんながカフェにあつまるシーン(第17話「言いたい、言えない」)にはほっこりした)