『地図にない場所』(安藤ゆき)

『地図にない場所』(安藤ゆき)を読んだ。表紙の淡いカラーが美しくて、思わず購入。帯に「人生終わった2人の、ご近所探訪記」とあるように、フランスのバレエ団に所属していたのに、足の怪我(後に作中で怪我は嘘で母親の死から、目的を失い自らの意思で退団したことが明かされる)か原因で引退した天才バレリーナ宮本琥珀と、自分の頭の良さに限界を感じ、苦労して入った進学校で行き詰まる中一の土屋悠人が主人公。


2人はマンションのお隣さんで、琥珀が帰国するまで交流はほとんどなかったが、回覧板のやり取りをきっかけに、少しずつ親交を深めていく。悠人は当初、自分の境遇から、「俺より終わってそうなやつが見たい」と、やじうま根性まるだしで琥珀を訪ねるのだがー、琥珀が思ったより生活能力皆無、面倒を見るうちに生まれた琥珀との交流に、「家」、「学校」にはない安らぎをおぼえていき、ふたりの都市伝説探しが始まるーー。というのが、大まかなストーリーだ。


作中のテーマになる「地図にない場所」、「イズコ(何処)」は、悠人や琥珀の小学校で流行って都市伝説で、代々「イズコ探し」、地図にない秘密の場所を探すあそびのようなものとして受け継がれている。琥珀30歳)が小学生の頃にも、一ヶ月ほどブームがあり、悠人の代にも引き継がれていることを知った琥珀は、もう一度「イズコ探し」をしようと、悠人に持ちかける。


とにかく情報収集して効率的に!という悠人の提案は琥珀に退けられ、あてもなく、町をくるくる探検しながら、イズコを探すふたり。コンビニでアイスを買ったり、公園で食べたり。アイスを食べたこともない、という琥珀に驚きつつも、「日常の感覚が全然違うんだろうな」と、町歩きを楽しむ。


キュートな琥珀に目がいくが、発言はシビアだ。悠人の「天才」発言に対し、自分は天才じゃない、「才能以上のことをしてたの。バレエと引き換えに。何もかも全部捨ててやっただけ。」と話す。

(それを天才と言うのでは??とあとで悠人が気づくシーンがあるが)


そもそもがイズコ探しも、小学生の頃したかったけど出来なかったことのひとつで、「放課後はすべてバレエ」だった琥珀が、追体験をするような意味合いがある。


悠人の友達、すず(中学受験組)もバレエを習っているが、プロになるほどの才能はないことを自覚している。楽しいから続けたいが、親からは早くやめて、勉強に専念して欲しいと言われている。すずもまた、「無駄な時間」を奪われそうなひとりだ。


琥珀にとって、全てを捧げたバレエが、すずにとって(正確には、すずの親にとって)は、その逆のものになっている。それはあくまで贅沢な時間、いつか飽きる「イズコ探し」のようなもので、時期がきたら辞めるものだと。親の意思がわかっていても、すずはバレエを続けたくてたまらない。どうか続けて欲しいと思う。


一巻はふたりのイズコ探し町歩きまでが収録されている。二巻以降、琥珀とバレエがどう関わっていくのかー今からとても楽しみだ。