『風太郎不戦日記』(漫画:勝田文、原作:山田風太郎)

風太郎不戦日記』を読んだ。忍法帖シリーズなどでしられる、小説家 山田風太郎の『戦中派不戦日記』を題材とした作品である。


昭和20年当時、23歳の医学生だった筆者(山田風太郎)が日々の記録を綴っている。筆者によれば、自分はその頃作家になるつもりはなかったし、「荷風のごとく」(永井荷風による日記文学断腸亭日乗』を指す)読者の目を気にして書いたものではなく、自分自身との対話を目的とした、極めて個人的な記録らしい。

風太郎不戦日記』では、「作家になるつもりはなかった〜」の箇所が冒頭に引かれており、恐らく40代ごろ?の筆者が当時を振り返りながら始まっていく。


漫画ではより、風太郎個人が描いた日記という点が強調されており、紹介文にも「生身の戦中日記。」と書かれている。1巻では読書のシーンも多く、淡々と日常が描かれているが、よくこの内容をこの冷静さで書けるよなぁと驚かされることが多い。作者自身が言うように、「医学生という比較的身軽な立場」ということもあるのだろうが、それにしても淡々と、配給、電車の中での会話、空襲、学校生活が描かれる。


この抑制された感じが、「戦争が日常」に当たり前になれきってしまった感じというのか、何の過激な表現もないのに、何ともいえず怖かった。

日常に溶けこんだ雰囲気、時代に漂っていた空気を描いたのがこの作品なんだなと思った。読みながら自分もその空気に飲み込まれそうな感じがする。


戦中を鑑みてという点からすると、「みずから読み返してみて、八月十五日以前は文語体が多く、以後は口語体が多いような現象が可笑しい。」(山田風太郎『新装版 戦中派不戦日記』講談社)の一言に尽きると思う。漫画では、果たしてその前後がどう描かれるのか、気になってしょうがない。