『ひとりでしにたい』(カレー沢薫)

『ひとりでしにたい』(カレー沢薫、原案協力 ドネリー美咲)を読んだ。モーニング公式サイトのモアイで試し読みしたときから気になっていたので、一巻発売後購入。『アンモラル・カスタマイズZ』を描いた人だから、きっと容赦ないだろうと思ったが、やはり夢も希望もなかった。


主人公の山口鳴海は、35歳、独身、学芸員。小さい頃憧れていた伯母(大手企業管理職、キレイ系でオシャレ)が風呂場で孤独死するところからはじまる。遺体は浴室中にあった…というところが、細かいがエグい。遺品の形見分けもエグすぎて、読んだ後、ベッドの下を掃除、あるいはPCデータをキレイにしたくなること必須である。部屋が汚い人はこの時点で買う価値がある。


憧れだった伯母が、いつのまにか身近な存在だった母親と立場が逆転、もとい、どん底まで(伯母自身が不幸かどうかはわからないが、世間の目では)落ちた老後を送り、ひとりで死んだ、という事実を受け、主人公山口鳴海は人生を見つめ直す。

自身の安定したライフプラン、そして安心した死に方を迎えるために。

というのが主なストーリーだ。


同僚のエリート男性(鳴海に好意を寄せている)も登場するが、だからといって安易なラブロマンスには運ばない。彼は現状、鳴海にとってのよいライフプランナー、アドバイザー的な立ち位置に近い。今後ふたりが接近するにしても、まずは鳴海が自分の足場を固めてから、になるのだろう。一巻最後の「迷ったら、立ちどまって現状把握」は良かった。自分が借金しないよう、壁に書いて貼っておきたいくらいだ。


この現状把握、からわかるように、この話は徹頭徹尾、自分ひとりで生きていくために、に現状焦点が当てられている。そして鳴海は良き伴侶、恋人、に出会ったから幸せになるシンデレラストーリーとは真逆のところにいる。


だからといって、頑なに日々を送るわけではない。アイドルグループの推し、仕事、愛猫など、鳴海の日々は楽しさで彩られている。前述のエリート男性に「なんで毎日あんなに楽しそうなんだろう…」と思わせるほどだ。そして仕事を馬鹿にされたら怒る。

サブエピソード的に挟まれる同僚女性の両親介護を巡った仕事の話は、悲しいことに働く女性の総意ではないだろうか。


話が飛んだが、この鳴海の、自分で自分を信じることで救われる、というのは、なんだかすごく勇気づけられる話だ。もちろんまわりの助け(推し、同僚、猫)なしでは生きてはいけないが、結婚したから(ひとりじゃないから)幸せ、未婚だから不幸、とステレオタイプにカテゴライズせず、主人公鳴海にとっての幸せ、安定を探すところに、この話の面白さがある。

伯母の孤独死は、ひとり身だったから起きた不幸じゃない、と結論づけられた時点で安心して読めた。

若干女性同士のマウンティングを過度に煽りすぎなきらいはあるが…それも、社会からの女性への圧力による歪みと思えば、自然である。

 

ほんわかとした絵柄のなかに、(特に猫がかわいい)エグい風刺と本音が交錯する。今後どう話が転ぶかわからないが、働く女性のリアル、と言いたくなる作品だった。そこにきらびやかなキャリアウーマンはもう、いないのだ。