『ひとりでしにたい』(カレー沢薫)わけがない。

現在、カレー沢作品を読み返している。これまで五億回読み返したが、今回きっかけとなったのはカレー沢御大のこの記事であった。

rosia29.work

よもや、と思った。『ひとりでにしたい』については、このブログでも書かせていただいた。

『ひとりでしにたい』(カレー沢薫) - sasamitebasakiのブログ

テーマの先進性から、マンガ新聞さんやネット上で多く取り上げられている作品である。売れていると思い込んでいたので、あまりに衝撃であった。

 

とりあえず、草の根運動である。私にカレー沢作品を紹介した父に声をかけたが、返信は「この作品自体は知っているが、生々しくてあまり…」だった。

 

自分がアイアンマンであれば、「あまり…」の3点リーダーについて、何の省略なのか小一時間問い詰めるところである。久々に血沸き肉躍った。仕方がないので1冊買って送り付けた。

 

そもそも父がカレー沢作品にひかれたのは、(グラゼニ目当てに買っていた)『モーニング』に載っていた、不朽の名作『クレムリン』がきっかけである。サラリーマンとして、何かひかれるところがあったらしい。正義ちゃんが好きだと言っていた記憶がある。(私はニャン子ちゃんとホリエさんが好きだ)

昭和から平成にかけてバリバリ働いた父にとって、会社、サラリーマンを舞台にした作品、『クレムリン』はどこか琴線にふれる作品だったのだろう。

頑張る男性をコミカルに、資本主義をシニカルに描いたこの作品は、一見『モーニング』で浮いているように見えながら、実際は何よりも「サラリーマン漫画」だったのだと思う。父はいまだに『クレムリン』の再開はまだか、と時々言っているくらいである。

 

当の私といえば、連載当時は学生であり、読み返している今、ようやく面白さを実感しているところだ。ただ、『クレムリン』も十二分におもしろいのだが、やはり『ひとりでしにたい』のほうが、よりひかれるのである。端的に言えば、カレー沢作品は、情報をアップデートし続けている。

 

クレムリン』で働く女性社員はしずかゃん、あとはモブの女性が多かった。掲載誌との兼ね合いもあるだろうが、物足りないところもあった。(当時から自立しすぎなニャン子ちゃんなど、生き生きとした女性キャラクターは登場する)

 

『ひとりでしにたい』は女性が主人公、専門職、マンションを持っている、愛猫の名前が魯山人。楽しい。それに、これまで、マンションを買った女性が孤独死について考える漫画があっただろうか。

 

同僚(女性)と話す話題も、仕事、介護、奨学金についてなどであり、きっとべグデル・テストも微笑むであろう内容である。

 

「女が結婚しないで子どもを産まないことは 罰当たりなの!?」

「「介護」も女の仕事だと思わてんだな……」

「仕事と家族 どっちが大事? どっちか犠牲にしなきゃいけない状況が異常だっての!」

「「更新されない人」は自分の古い常識で 若い人に平気で無神経なことを言う」

(『ひとりでしにたい』1巻より)

 

少し前に『逃げるは恥だが役に立つ』(海野つなみ)で、登場人物のひとり百合ちゃんが、女性の呪いを解いてくれた、と話題になったが、この漫画もまた、女性にかけられた、あるいはそこにあると思い込んでいる呪縛を解いてくれる作品だと思う。

読後、私も重たい荷物を下ろしたような気持ちになったからだ。

(カレー沢先生のこのブログ記事に通じるところがある

カレー沢先生、独身イジリへの対策法を教えてください! | キノノキ - kinonoki

 

万万が一、この作品をタイトルで敬遠している方がいたら、これは決して孤独死バンザイな漫画ではない。よりよく生きたい、老後困らないようにしたい、という内容をギャグで包みながら書いた作品である。

 

長々とくだらないことを書いてしまった。要は、『ひとりでしにたい』が続いてほしい一心である。

 

クレムリン』が平成のサラリーマン漫画だとすれば、『ひとりでしにたい』は令和のお仕事漫画でもある。この作品をきちんとした形で最後まで読みたいと思うことは、そんなに贅沢な望みなのだろうか。